blog

2023/03/14 20:19

大学でジャーナリズムを教えている古くからの友人が、ゼミの学生に蜜林堂を紹介してくれた。興味を持ってくれた学生さんが訪問取材してくれて、下記の文章にまとめてくれた。「記事というよりも、訪問した感想のような感じでまとめました」とのこと。ありがとう。

(少し前の取材なので、現在の商品のラインナップと少し違います。ご了承下さい)


ハリを持たない ハチのハチミツ屋

兵庫県神戸市、灘高校のすぐそばに、密やかな佇まいをした風変わりのハチミツ屋がある。 ボルネオで観光ガイドをしていた上林洋平さんが一から立ち上げた「 蜜林堂 」だ。何が風変りなのかというと、まずは看板商品のハチミツである。蜜を取ってくるのは、あのミツバチではない。熱帯・亜熱帯地域に生息する「ハリナシバチ」だ。名前の通り針を持たず、体も小さい。たった 9 種類のミツバチに比べて 400~500 種類ほど知られているが、東南アジアなどではそこら中に飛び回る“ありふれたハチ”だ。上林さんは、ありふれた存在だったハリナシバチに目を向け、 2019 年に独立開業した。

店頭に並ぶのはハチミツだけではない。お店に入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、熱帯雨林の動植物や昆虫のポスターや写真 、ファイルの数々だ。ウツボカズラの形をした自立するタイプのペンケースや、ラフレシアのたわし 。好きとこだわりが目いっぱい詰め込まれたグッズたちを見て、上林さんの熱帯雨林オタクを確信した。店内は、「熱帯雨林オタク」からするとたまらない空間だと思う。素人の私も、今からこの未知に囲まれた空間で上林さんから話を伺えると思うと気分が高揚した。



っぱくて、少し甘くて、苦い

「まあまずは食べてみてください」と5 種類の瓶詰めされたハチミツを机に並べてくれた。それぞれ色が微妙に違う。光を通すと琥珀のような輝きを見せる茶色い「アカシア Hi 」や、透き通った黄金色の「パイナップル」など。ハリナシバチが作ったハチミツの中でも、それぞれ色も香りも異なるのが不思議だ。スプーンに垂らすと、まるで水のように軽やかに滴る。一口食べながら、甘くてとろりとした食感のハチミツを想像していたら、頭が「?」でいっぱいになった。酸っぱい?でも 、 ちょっと甘いような?フルーティーな味わいなのに?漢方みたいな香りもする。黒酢やあんずのように、酸味があって甘い。ハチミツなのにハチミツではないので、何度か食べても意味がわからなかった。それは既存のハチミツではない何かであり、他に例えられるものがない。未だ味わったことのない「まったく新しい食材」だ。感覚で言うなら、初めてタピオカを食べたときや、UHA 味覚糖の新発売グミを食べたときなどのワクワク感に近いかもしれない。しかも、ほとんど人の手が加えられていない自然の産物だから不思議だ。 5 種類全部、味も香りも色も違う。花の種類、木の種類、ハリナシバチの種類の組み合わせ次第で、味のバリエーションは無限大の可能性をもっているという。



私が一番美味しかったのは、ご親切におかわりまでご用意してくださった炭酸割りジュースだ。冷えた炭酸水にもサラサラと溶けていく 様子が不思議だった。甘酸っぱい爽快感があり、形容しがたい独特の味だが、強いて言うならフルーツ酢のような風味が近い。すっきりした口当たりの後、まろやかな甘みが感じられて、頬がじんわり痛くなるような、一口一口大切に食べたい味だ。今まで市販ハチミツの味に違いなど意識したことはなかったが、これは「味わうハチミツ」という言葉がぴったりな気がしている。

なぜ今、ハリナシバチなのか?

上林さんが着目したハリナシバチの魅力は、その珍しさやおいしさだけではない。むしろここからのお話に、私は最大の魅力を感じた。ハリナシバチの産業は、自然と共生しながら発展することができるのだ 。自然を犯さない、つまり「産業」という言葉で 想像される環境破壊的なイメージとは真逆だろう 。ハリナシバチが生きるために、むしろ自然はなくてはならない存在だ。なぜなら、ハリナシバチ は巣を 、樹液と蜜ろうを混ぜた「 プロポリス 」で作るからである 。そのためには、周辺環境に花だけではなく樹木、つまり森林という自然が不可欠になる。プロポリスが蜜に溶け込むことで、 特有の甘酸っぱさが生まれるという仕組みだ。 ハリナシバチのハチミツは、花蜜と樹液、ときにはハチの種類の組み合わせによって味が決まる。 花や樹木の種類が豊富であればあるほど、 すなわち自然の多様性が豊かであればあるほど、ハチミツの味も多様になるのだ 。現地の農家たちは、自然を残しながら自分たちだけの味を探していくので、産業としての魅力も豊かになる。ハリナシバチの産業と生物多様性は、持ちつ持たれつの関係というわけである 。



しかし、熱帯雨林をめぐる状況は深刻であり続ける。自然は人々の便利な生活の代償に消え、現地では知識も言葉も失われつつある。 1980年代から大規模な伐採が始まり、熱帯雨林は大規模農園へと姿を変えていった。プランテーションには一種類の木しか生えない。「生物多様性」の熱帯雨林とは正反対なのが悲しい。上林さんが幼い頃図鑑を読みながら夢中になったのは、いつも熱帯雨林の不思議な動物や植物だった。自然に生きる彼らは、人工物とは違っておのずと生きる術を身につけている。その可能性は自分の想像をはるかに超えてくる。人間には計り知れない未知の世界に強く惹かれた。しかし、一度は見てみたいと願う自然界の生き物たちはすでに絶滅危惧種。飛行機か ら平たい景色が続くのを見下ろし、うんざりしたという。幼い頃、好奇心をくすぐられた熱帯雨林への思いは、大人になってから自身の中で、残し、そして伝えていかなくてはいけないものへと変化した。

運営するホームページで、事業を「MISSION」と題していることが印象深い。使命感の裏に、「もったいない」「熱帯雨林を無くしていけない」という確かな焦りを感じた。温和で優しいお人柄からは想像できないような、内側に込める熱いエネルギーと切実な思いだ。特にこれからの取り組みについて話していたとき、「ファンを増やしたい」という言葉を使葉を使われていたことが心に残る。環境問題に疑問を呈する姿勢なのにポジティブな感じがして素敵だ。ビジネスにおける有益性や経済的効果に囚われなくても、ハリナシバチに対する単純な「面白い」「もっと知りたい」という気持ちが、人を動かしていくのだろう。上林さんの言う「生物多様性がもつ根源的な価値」はそういうところにあるんじゃないだろうかと思う。

ハリナシバチは外来種ではなく、ボルネオ島では昔からありふれた存在だった。それがある日、人々の健康を守り、島の雇用を支え、自然を保護する存在として、突然脚光を浴びた。当たり前だった存在が秘めていた可能性に触れ、「いかに人間が自然界を知らないか」ということに気づかされる。食品界の一ジャンルを形成し得るような、まったく新しい存在が身近に眠っていたのだ。熱帯雨林には人間がまだ知らないことが山ほど隠れているに違いない。

東灘から、ひとくちで未知の世界へ

お土産までたくさんいただいたので、私は訪問してから数か月にわたってハリナシバチハチミツを楽しませてもらっている。生き物たちの知恵、先住民の知恵、文化の知恵、科学の知恵が詰まった、このまったく新しい食材を楽しむひとときは、遠い国の熱帯雨林に思いを馳せることができる。後日伺ったとき、新しく発売されたブルーベリー味を試食されてもらった衝撃がたまらなかった。蜜源がわからないそうだが、なぜかブルーベリージャムのような味がする。なぜブルーベリーの味がするのかは、ハリナシバチしか知らない。説明できない不思議さに、ハリナシバチにはまだまだ秘密が隠されているのだろうと心が揺さぶられる。 蜜林堂は、未知の世界へ開ける入口だ。場所も隠れ家チックな魅力があり、ハリナシバチみたいで惹かれる。一度蜜林堂という未知へ開ける扉を叩き、一口食べて、想像力をはるかに超えた不思議な感覚を味わってみてほしい。





健康応援キャンペーン!通常1万円のところ、6000円以上お買上げで送料無料

Search商品検索

Categoryカテゴリー

Guideご利用ガイド

Mailメルマガ

当店からメールマガジンをお届けいたします。
ボルネオ島でしか手に入らないウツボカズラポスターを入荷!